日本の名作を読む 第9講 3 百人一首

簡単なまとめ

この動画では、百人一首の中から恋の歌として有名な二首(崇徳院の歌と式子内親王の歌)を取り上げ、その背景や表現技法を詳しく解説します。また、おまけとして、恋の歌ではありませんが、有名な「ちはやぶる」の歌も紹介し、枕詞や見立てといった和歌のテクニックを解説します。

  • 崇徳院の歌は、激しい恋の歌として知られ、「瀬をはやみ」の序詞と「掛詞」を用いて、会いたいという強い意志を表現しています。
  • 式子内親王の歌は、秘めた恋の苦しみを詠んだもので、「玉の緒」という言葉を使い、切実な女の思いを繊細に表現しています。
  • 「ちはやぶる」の歌は、枕詞や見立てといったテクニックを使い、紅葉の美しさを詠んでいます。

激しい恋の歌:崇徳院の歌

崇徳院の歌「瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に あはむとぞ思ふ」は、激しい恋の歌として有名です。歌は川の流れをモチーフに、恋の激しさと再会への強い意志を表現しています。「瀬をはやみ岩にせかるる滝川の」は序詞であり、激しい川の流れのイメージを喚起させます。そして、「われても末にあはむとぞ思ふ」という結びで、別れても必ず再会しようという強い思いを述べています。「われても」と「会う」には掛詞の技法が使われており、川の流れが分かれても再び合流するように、別れた恋人とも必ず再会できるという思いが込められています。係助詞「ぞ」は意味を強め、作者の強い意志を表しています。

女の側の歌:式子内親王の歌

式子内親王の歌「玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする」は、秘めた恋の苦しみを詠んだ歌です。「玉の緒」は命を繋ぐ糸を意味し、ここでは命そのものを指します。「絶えなば絶えね」と、命が絶えても良いという強い言葉で始まりますが、それは「ながらへば忍ぶることの弱りもぞする」という、恋心を隠し続けることができなくなることへの恐れがあるからです。「もぞ」は「~すると困る」という意味を表し、秘めた恋が露見してしまうことへの不安を示しています。歌全体を通して、恋に苦しみながらも、それを必死に隠そうとする女の切実な思いが伝わってきます。

おまけ:「ちはやぶる」の歌

在原業平の歌「ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは」は、枕詞と見立ての技法が用いられた有名な歌です。「ちはやぶる」は神を導き出す枕詞で、神の勢いや神秘さを表現します。歌は、竜田川が紅葉で赤く染まる様子を、絞り染めに見立てて詠んでいます。紅葉という言葉を使わずに、川が紅色に染まっている様子を描写することで、紅葉の美しさを表現しています。この歌は、屏風に描かれた竜田川の紅葉の絵を題材にして詠まれたもので、技巧を凝らした表現が高く評価されています。

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0:00 さあ、最後は激しい恋を読んでいきましょう とても有名な歌ですね 「瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に あはむとぞ思ふ」 崇徳院の歌です、これをね読んでいきましょう 崇徳院という人は、お父さんが鳥羽天皇、母が待賢門院璋子という 実は鳥羽天皇の祖父、白河院と璋子の間に生まれた不義の子 なんていう風にもね言われて、父から疎まれた 鳥羽天皇が亡くなった後 弟の後白河天皇と対立し、保元の乱が勃発し、この乱に敗北し 讃岐に流されて、そのまま亡くなってしまったという 非常に不遇の生涯を送った人物なんです

0:47 ちょっと悲しいね、人なんですけれども その人が詠んだ非常に力強い歌ですね 非常に恋の激しさを詠んだ歌として有名な和歌です これをちょっと読み解いていきましょう 「瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に あはむとぞ思ふ」 「瀬をはやみ岩にせかるる滝川の」川の話ですね 岩とか出てきて、川の話をしていますよね それで、「これ川の歌なん?」と恋の歌ですけれどね 「川の歌なん?全然ちょっと関係ないじゃん」という風に思わせますよね それでその後「われても末にあはむとぞ思ふ」会おうと思うという ここにちょっと意味がわかることが出てきましたね

1:34 ああ、別れても最後には会おうと思うということなんだなと 川の話とこの会いたいという風に思うということは全然話が違うやんと こういう風に、全然違うやん、関係ないやんということが出てきた時 考えたいのは「序詞」ということでしたよね 七音以上からなる修飾語、ちょっと長いよね フレーズが長い、 5・7・5 を使っていますよね その長い修飾語のことを「序詞」 イメージを膨らませる働きがあるんですよという そういう「序詞」というのを『伊勢物語』の時に たつた山を夜半に一人で越えているのかしらと そういうのを、暗い時のですよ、波の音になぞらえて

2:20 奥さんが詠んでいましたよね あの時に出てきた「序詞」というやつです ここもこの長い部分ですね これが「序詞」になっている訳ですね 「序詞」の部分と、自分が言いたい部分を 全然関係ない「序詞」と自分が言いたいことをくっつけると それは何を使うかといったら「掛詞」でしたね その接着の働きをするのが「掛詞」 ここは川が分かれるという風に言いますよね 川が分かれる、例えばこういう風に分かれる訳ですね

3:07 川の流れが「分かれる」訳ですよね それと「会う」で、「別れても」ということですね あなたと私が別れてもという ここが「掛詞」になって、この全然関係ない 川の話と私の話をくっつけてくれている訳ですね だから、あなたと別れても最後には、末にだよね 末には会おうという風に思っているんですよと しかもここは「あはむとぞ思ふ」だよ ここの「ぞ」というの この「ぞ」というのも、意味を強める係助詞なんですね だから、もう強い意志であなたに会いたいと 今は離れ離れになるかもしれないけれども

3:52 絶対に会うという風に思っていると あなたに絶対会うよ、会うからね 今は離れ離れかもしれないけれども、将来必ず会おうと そういう強い意志を表した歌ということですね、いいですよね 別れても必ずまた会おう びっくりマークを2つか3つぐらい付けたいぐらいですね これが言いたいことになる訳ですね そういう強い意志を表している歌です さあ、その強い意志のイメージを膨らませる為に

4:39 「瀬をはやみ岩にせかるる滝川の」という飾りの 「序詞」がイメージを膨らませていくんですよ 皆さんイメージしていってくださいね 「瀬をはやみ」瀬、これは流れということですね 流れが速いので、ここちょっと押さえておきましょう この「を」と「み」というのは、和歌で使われる表現なんですけれども 何とか「が」何とかな「ので」という風に訳します というお決まりの表現なんですね だからこれは、流れが速い、流れですね 流れが速いのでという、そういう構文ですね、「を、み」の構文 何とかが何とかので、川の流れが速いので、ということですね

5:24 だから、岩なんかがあった時にですね 例えばここに岩があった時に、こう流れが凄い速い訳ですね だからプシューッとあたって、こうパーッと割れる訳ですよね 岩でせき止められると 「せく」というのはせき止めるということですね 「滝川の」という風に続いていきます そうするとこれ、普通の川と違うんですね、滝川なんですよ 「春の小川はさらさら行くよ」という、ああいう静かなね 細い川ではないのね 滝川、もう滝のようにドワァーッとね

6:11 流れ落ちてくるような流れが速くて激しい滝川ですね それをイメージしてくださいね ちょっと色んな色が出すぎて分かりにくくなってきたけれども これは普通の小さな川ではない訳ですね、小川、静かなね 川というのは、せき止められるものであるし 川というのは流れがあるものですよということで

7:00 この「瀬」と「せく」と「川」という、これが川の関連語になる訳ですね これは縁がある言葉、いっぱいテクニックを使っているね、この和歌は 川の関連語も散りばめて、川はせき止められて、そして流れがあるものだ というその川のイメージだよね、そしてこの激しい速い急流ですよね その川のイメージというのは、映像として思い浮かばせる あるいはその岩にプシュッと当たった時のその川がパッとね 水しぶきが上がるその音なんかも、川の流れの音なんかもね 皆の、読んだ人の頭の中に、バックミュージックとして 出てくるかもしれませんよね

7:46 その川のイメージのように別れても、あなたに絶対会いたいという それぐらい自分の思いは強く激しいものだということだよね そういうここは、これで激しい恋のイメージだよね というものを、ここのところで、作り上げている訳ですね だから、それぐらい自分の思いというのは 非常に激しく強いものであるよと 今はもう仕方なく別れてしまうかもしれないと 岩があったら別れてしまうのは、もうこれはやむを得ない 仕方がない、自分の力ではどうしようもないことかもしれないけれども そういう風に別れたとしても、必ず将来、あなたに会うと

8:34 会いたい、絶対会いたい、私は会おうと思うという、強い決意ですね そういうものを、滝川の激しさになぞらえながら詠み切ったという そして「あはむとぞ思ふ」という風に 非常に強く言い切っているところが やっぱりここはいいですよね、この意志の強さといいますか 会えるかなどうかな、う~ん分かんないな だけれども会いたいな~みたいな そういうちょっと何かね、やつではなくて もう絶対と強く言い切っているという、そこの断言というのかしら そういうのも力強く、いいですね という歌がこれ、やっぱり有名な和歌だけありますね そういう和歌です さあそして、これは崇徳院、男の側でしたね

9:21 今度はちょっと、女の側の歌も読んでみましょう これも非常に有名な和歌ですね 「玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする」 式子内親王の女の方の和歌です 先にちょっと訳を読んでみましょう、名訳で味わってみましょう 秘めて思う苦悩に細る玉の緒のいのち いっそ、この悩ましい玉の緒が絶えるなら絶えてしまえ もうこれ以上、この胸にひめつづけて生きることなどできはしない そういう恋の苦しみ、そういうものを詠んでいる和歌ですよね さあ、ちょっと分解しながら、その魅力というものを味わってみましょう 「玉の緒よ」という風に、ここでいきなりですね

10:11 呼びかけて、命令、呼びかけている訳ですね 「玉の緒よ」という風にここで呼びかけているので びっくりマークが付いて、ここで、言ってみれば 文章が1個切れる訳ですね 「玉の緒よ」という、これは何なのかということなんですけれども 「玉」というのはこれは、魂に通じる訳ですね それで「緒」というのは、糸ということですね だから、魂をつないでおく糸のこと 魂をつないでおく糸ということでこれは 命ということなんですけれども

10:57 そこから命という意味になるんですけれども 「私の命よ!」ということですね 「命よ!」と、命に呼びかけるってどういうこと?と思いますよね その後さらに、「絶えなば絶えね」という風に続いている訳ですね これは「ば」という風に仮定している訳ですね 「絶えてしまうならば」ということですね、「絶えてしまえ」ですね ここの「な、ね」というのは、これは「~てしまう」 さっき出てきた、何とかしにけりの「にけり」と一緒で 完了の助動詞になります だから「~てしまうならば、~てしまえ」という風に言っている訳ですね ここも命令しているんですね、「ね」というのは命令になりますから

11:45 これまた切れる訳ですね 私の命をつなぎとめているこの細い糸よ その糸が、もうぷつんと 絶えてしまうんだったら、もう絶えてしまえばいいわということですね 私の命がもう絶えてしまってもいい!という風に それを命令で言ってしまっているから、もう強く思っている訳ですね もう絶えてしまってもいいわ 何で?と思いますよね 何でそんな命絶えてもいいなんて思うの? それでその後ですね

12:31 「ながらへば」ですね 「ながら」は生き長らえるという風に言いますよね 生き長らえたら、「ば」がありますね もし私がこの後もずっと長生きしたとしたら、生き長らえたとしたら 「忍ぶることの弱りもぞする」と 「もぞ」というのが出てきますね これは「ぞ」という強意の係助詞に、「も」というのが付いて 「もぞ」という形になった時には、「何とかすると困る」と訳す お決まりの訳し方をするんですね 「忍ぶ」というのは、さっきやった「忍恋」だよね 恋を心に秘めておかなくてはいけない訳ですね 隠しておかなくてはいけない訳ですね その隠していることが、弱ったら困ると

13:19 隠そう隠そうとしているのが弱るというのはどういうこと? 隠さずにこの恋が外に出てしまったら、困るということですね 隠さないといけない恋なんですよね、これ、しかも必死に もう死んでもいいぐらいに、もう必死に、必死の状態で 絶対に隠しておかなくてはいけない バレてはいけない恋をしているんですね 恋に耐えて隠している、その力が弱ってしまったら困ると つまりはこれは必死に隠していると

14:14 この二人のあれは隠さなくてはいけない恋だということですね 必死に隠していないといけない恋だからと 生き長らえたらその隠している私の気持ちがですね 弱ってしまって、ふと出てしまうかもしれない それぐらい、外に表れるぐらい、思いがもうね 自分の心から溢れ出てしまうかもしれないという そのことを心配しているんですね 「もぞ」というね そのことを心配すると、そういう風に もう思い溢れて出てしまうぐらいだったら、もういっそ 今、命がもう絶えてしまうんだったら、もう絶えてしまっても構わないわ 非常に強いですね それぐらいやっぱり、ずっと好きでもあるということですね

15:02 この気持ちは変わらないし、益々強くなるものに違いないという 女の思い、強い恋の思いというものが詠まれている訳ですね さあ、ここの和歌の上手さはどこにあると思いますか? まず一つは、これテクニックをやっておきましょう 「玉の緒」というこれは命ですね 緒というのは 「玉の緒」命、魂をつなぎとめる緒、糸ということですね

15:48 糸というのは、プツンと絶えてしまう 切れてしまいますよね、だから この「玉の緒」と「絶え」というのは、これが関係ある言葉になりますね そして糸というのは長いものですね だから、ここも関係がある言葉になります それで糸というのは細いものだから弱いものでもあるんですね 弱るものでもありますよね ここも関係がある言葉なんですね これ全部、糸の縁語、関連語で、細い糸のイメージですね 細い糸、魂をかろうじてつなぎとめている、その糸のイメージ

16:36 細い細い女の命をつなぎとめる、その細い細い糸ですね それを頭の中に、皆のイメージとしてこう思わせる訳です もういつ切れるか分からないという 本当にそういうギリギリのところの糸ですね その糸がもうプツンといってしまっても私は構わないんだと その細い糸で生き長らえて、もし私の思いが溢れてしまって それ以上に出てしまったら困るから、もう切れても構わないんだという 非常に繊細でそして、切実な恋の思いというものが 細い糸ですね 細い糸のイメージで描き出されていますよね

17:25 その糸に対して、最初の時には「玉の緒よ絶えなば絶えね」という風に 命令、命令で非常に強く呼びかけているよね ここは命令して、強い訳ですよね もういっそ絶えてしまってもいいわという これが前半、強い訳ですよね それに対して後半は 忍んでいることが、弱ってしまったら困るわという 心配しているという、これ弱気ですよね ここの、この対照的な 最初は強く、もう死んでもいいと言いつつ

18:10 生き長らえたら、もし生き長らえたら 弱ってしまったら困るわという風に、非常に弱気な面もあって そういう強い部分と弱い部分とで、細い糸が揺らめくように 揺れ動く女の気持ちですよね、揺れる思い ある時は強く、もう死んでもいいと思う時もあるし ああどうしましょう、どうしましょうと思う時もあるしという そういう恋の揺れ動く思いというものを、またこの細い糸に こう揺らめくようなイメージと絡み合わせながら そして糸はもつれたりもしますよね そういうもつれたり、絡まったりという

18:56 そういう自分の絡む思いというものを これは表現しているんだということで やっぱりこの糸のイメージ、そしてこの強い口調というのが非常に 効果的というとあれだけど 切実な思いというものを伝えている歌ですね そしてこれね、あの皆さんね 今画面を見て聞いてくださっていると思うんですけれども いっぺん自分で口に出して言うてみてください そうすれば歌というのは、調べの部分もありますよね 口に出して読んだ時の読み心地 口に出した時の口触りの良さというんですか、そういう音 やっぱり皆も今、色んな人・歌手の

19:42 色んな歌手ですね、歌手の歌をお聞きになる時に 歌詞だけではなくて、やっぱりメロディーとかも大事でしょう それと同じように、やっぱり調べという部分がある訳ですね これは口に出して読んでみたら分かると思うんだけど 「玉の緒よ絶えなば絶えね」という、この「タ・タ」とあるよね 「玉の緒よ絶えなば絶えね」という、「タ・タ・タ」という風に 命令のところで、「タ・タ・タ」という風にですね こう何て言うんだろう 追いかけるように、こう「タ・タ・タ」というのを 短いこの感覚で重ねていく訳ですよ そして「タ」というのは、ア~という音よりも「タ」というのは 口をこう破裂させますでしょう、破裂音でしょう 「タ」と言いますでしょう それだけやっぱり、激しさというものも伝える音だと思うんですよね

20:29 そういうもので重ねていく、自分の思いを表現していくという そういうところもあるのではないかなという風に思うんですね やっぱり名歌ですね さあ、今日はこのようにちょっと恋にスポットを当てて それぞれの和歌を読んできました 皆さんの中で、この歌良いな特に良いなというね お気に入りの歌がもしこの中であれば またそれも聞かせて欲しいですし ちょっと比べ合いもしたから それ、自分はどう思うかとかいうようなこともね また、今日感想に書いてくださったらと思います さあ、ちょっとおまけ、恋ばかりではないよということで こんな歌も取り上げておきましょう 「ちはやぶる」の歌ですね これは、後で紹介する漫画のタイトルにもなって有名な歌ですね

21:19 「ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは」 これは業平の歌ですね これは何が有名なのかということなんですけれども テクニックをたくさん使っていますね 「枕詞」と「見立て」というテクニックを使っています 「枕詞」からいきましょう 「枕詞」というのは特定の言葉を導き出す修飾語 たいていは五文字の言葉で この言葉が来たら、必ずその後にこの言葉がきますよというのが もう決まっているというのがこれ「枕詞」というやつなんですね 例えば、暗号を二人で決めておくみたいな感じです 山と言って川と答えたら、ぱっとドアを開けるよみたいにですね

22:06 必ずこう言ったらこう答えるというのが お決まりのセットになっているというのが「枕詞」 「ちはやぶる」と言ったら、その後には「神」と答えるというのが もうこれセットになっているんですね だからここでは、この「ちはやぶる」というのがテクニックになりますね まず「枕詞」というテクニックになります ちょっと色を変えましょう、これが「枕詞」で 必ずこれは神という言葉を導き出すんですよということですね それで、もうお決まりの定型になってしまっているので この「枕詞」自体には、そんなに意味がないよとかね

22:54 訳す時はここの「枕詞」は訳さなくていいんだよという風に 学校で教わった方も多いと思います なかなか言葉にしにくい言葉、訳しにくい言葉でもあるんですけれども だけれどもね、考えてほしいのは 和歌というのはみそひともじ、31文字の本当に限られた文字数ですよね その中で五文字も訳さなくていい 要らない言葉は何で入れるのかということを やっぱり考えないといけないと思うんですよね 本当に要らない言葉なのか、ということですね やっぱりそうではないと思うよね 大事な大事な音数の中の五文字も割くんですから 何かしらの意味があるんだろうと そうするとこれは元々は遡っていくと

23:39 だんだんそういう風に定型化していって 意味というものが薄れていったかもしれないけれども 本来的には言葉が出来上がった時には 意味が込められていたんだろうということですね その意味は何なのかということを考えると よりイメージが膨らんでくるということになる訳ですね それでこの「ちはやぶる」というのは その原義と言いますかね 元々の言葉の意味というものを辿っていくと 「ち」というのが風、「はや」というのは速いだよね それで「ぶる」というのは、荒ぶる神とかいう風に言いますよね 荒々しい神ということだね、そういう様子を表わしている言葉ですね だから「ちはやぶる」、風がブワッと速いとかね 風がブワッと吹いているように荒れているという そういう荒々しい神の姿

24:26 それぐらい神様は凄い存在だということで 神様を賛美するという意味が元々はあったんですね そういう、荒々しい神よ!ということです 荒々しい神様達が存在していた昔も、ということだよね 『古事記』ぐらいの、あるいはもっと昔に遡るかもしれないけれども そういう古代の神様達の時代というものを イメージしていただいたらいい言葉だと思いますね そういう神代、昔も、ということですね 神々の時代にも聞いたことがないよ、ということですね 聞いたことがないと、「聞かず」とここで終止形で区切れますね

25:21 そういう荒ぶる神がいたような、そういう昔、古代の時代 神々の時代にも聞いたことがないよということですね 何を聞いたことがないの?どういうことを聞いたことがないの? というと、その後来るから、ここは倒置になっていますね 一体何を聞いたことがないのかというと 竜田川がからくれなゐに水をくくるということ 昔も聞いたことがないよというね そういう風に、最初に 「神々の時代にも聞いたことがないよ」とバーンッと出して 「え?何のこと何のこと?」と皆の心を惹きつけておいてですね 実はこのことだよと後から出すという そういう倒置のテクニックを使っている訳ですね さあ、何を聞いたことがないかというと 竜田川が「からくれなゐに水くくるとは」と

26:10 からくれなゐというのは、唐の紅だよね これは色ですね、紅色というか、くれない色ということですね それで、これ「唐」と付いていますでしょう だから日本の色ではないんですよね 日本の技術では難しい、中国の唐の国の色な訳ですね だから、そういうあまり見れないような素晴らしい色だ というようなことになる訳ですよね

26:56 それも一つ、褒めているということになりますよね こんな鮮やかな色にということですね 水をくくるなんてという 「くくる」というのが分かりにくいね 「括る」というこれは、絞り染めのこと 布地なんかを水に浸して染める訳ですね 染色する時に、染液といいますかね そういうものに布を浸して染める訳ですけれども その時に絞ったりすることですね それを括り染めという風にいう、絞り染めのことですけれども そうすると、川が紅色に絞り染めをするとは 何を言うてんの?ということになりますよね

27:44 ここでもう一つ、テクニックを使っている訳ですね 川が絞り染めなんかしないですよね 竜田川が絞り染めをするとは、という風になっているけれども 川は川だから生きていないから、ここで擬人化している訳ですね 竜田川が絞り染めをするとはと、絞り染め 紅色に絞り染めをするなんて聞いたことがないよと それは聞いたことがないでしょうね、川がね そんなことしているなんてもう、あり得ないことですから

28:29 そんなことなんて神々の時代でもないでしょうねと いうことになるかと思いますけれども 一体何を言うてんの?ということですよね それで、この歌だけを見ると非常に難解なんだけれども これが詠まれた場面というものを知ると この歌が了解出来る訳ですね そのシーン この和歌というのは、屏風に描かれた竜田川の紅葉の絵 これをお題にして詠まれたと、素晴らしい紅葉ですね 竜田川に紅葉が散っているような、散り敷いているような そういう絵を描いた屏風、素敵な屏風があったと では、この屏風に描かれている景色を 和歌で業平さんちょっと詠んでみてよ、みたいなことなんですよね

29:15 それで、紅葉が浮かぶ流れを真紅の絞り染めに見立てていると だから、この歌の中には一言も紅葉なんて言葉が出てきていない訳ですね だけれども、この紅色に川が染まっているというところで 紅葉ですね 川に紅葉があるということを詠んでいる訳ですね 擬人法を使って、それを見立てている訳ですね ここのところで、この川が、竜田川の紅葉の絵ですよね

30:05 これを染め物という風に見立てている、ここの部分ですね ここの部分が見立てになっているということになる訳です なぞらえている訳ですね 擬人も使いながら、なぞらえてということですから 非常にもう技巧に技巧を重ねたそういう歌で しかも紅葉ということを一言も出さずに紅葉を詠むという そういう技術ですね それを使っているということで この歌というのは「おおっ!」とたぶんね 披露した時になったと思うんですよね そういう意味で、この「ちはやぶる」の歌というのは 非常に有名になった歌なんですね これが今、私達は漫画のタイトルなんかでも知っている訳ですが

30:53 今日、いくつか和歌を読んできました 『百人一首』は改めて面白いんだなと しっかり読んでみると、上手さというものがね より分かるんだなと思って興味を持ってくださった方は いつもご紹介してる『ビギナーズ・クラシックス』にもあるし ソフィア文庫にもあります 他にも、色んな『百人一首』の説明の本はあると思うから 皆さんが読みやすいものを手に取って、読んでみてくださいね 作家が手がけたものとしては 今日ご紹介した、馬場あき子さんというのは歌人なんですね それで、色々な古典にも非常に造詣が深い方ですので 有名ですこの人の訳というのは『馬場あき子の「百人一首」』とか 最近では小池昌代さんが この方も詩人で、言葉というものに非常に通じた方ですけれども

31:42 その小池昌代さんも『ときめき百人一首』という これ、割と学生さん向けというかね、高校生向けというか 読みやすい形で書いてくださっているような本もあります あと漫画ですね、漫画では『ちはやふる』ですね これ「ぶる」となるのと「ふる」というのは 昔もこれ、両方の言い方というのがあったそうですね だから、どっちでも間違いではありません 『ちはやふる』は映画にもなったから これで知っているという方も多いでしょう 今日はこの『ちはやふる』の1シーンを取りましたけれども だけれども、この『超訳百人一首 歌恋い。』の方ですね こちらも非常に、和歌そのもののことをよく知ろうと思ったら とてもおすすめです

32:29 和歌の専門のね、研究者の方が監修しておられる漫画でもあるので 非常に内容もしっかりしていますし 何といっても絵が美しいので、これはとてもおすすめです こういうね、漫画でも文章でも構いませんのでね 是非、この『百人一首』の世界というものを 垣間見ていただけたらと思います それでは、今日はここまでにします お疲れ様でした

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