0:00 それでは続きを読んでいきましょう 鬼達の酒盛り、宴会が始まってですよね 鬼達が舞い始めた、踊りをおどり始めた訳ですね ダンスを始めたと 次々と下座の鬼から舞う、下手な者も、上手な者もいると 首領の鬼が「今夜の酒盛りはいつもより面白い。 もっと珍しい舞を見たいものだ」 と言った時ですね だんだんこう、色んな鬼が踊りだしてですね 宴会が盛り上がってきている訳ですね いつもより何か面白いということだから いつもよりちょっとなんか皆楽しい雰囲気になっていたということですね それでその時に、トップの鬼が 「もっと珍しい舞を見たいものだ」と言った時 この中で怖がってたおじいさん
0:46 「物の憑きたりけるにや、また然るべく神仏の思はせ給ひけるにや、 「あはれ、走り出でて舞はばや」と思ふを、一度は思ひ返しつ。」 そのトップの声を聞いた時にですね このおじいさん、何か憑き物が憑いたんだろうか、ですね 何か霊が取り憑いたんだろうかということですね 何か物の怪でも取り憑いたんだろうか 「また然るべく神仏」ですね 「そうなるように」ですね、「然るべく」というのは
1:33 そうなるように神様や仏様が思わせなさったんだろうか 何かこう、神がかってしまった訳ですね 「普通の人間の常識では考えられないことに」ということでしょうかね おじいさんは「あはれ」、「ああ!」ということですね 走り出して「舞はばや」、「舞いたい!」と 自分も踊りたいと思ってしまった訳ですね 「あはれ」というのは心の底から発せられる感動詞ですよね 「ああ!」という風に思ったと 自分もこの洞穴から飛び出して舞いたいと 「ばや」というのは何とかしたいという願望ですよね 「舞いたい!」という風に思ったと それを「一度は思ひ返しつ」 だから、おじいさんは理性が働いている訳ですよね
2:19 前は何か憑き物によって、神様仏様によって、ということですから (舞いたいと)思ったんだけれども ちょっと一旦ここで理性が働いて 「いやいやいやいやいや」という風に思いとどまった訳ですね 何で思いとどまったんでしょうね 色んな理由が考えられるんじゃないでしょうか まあ「怖い」というね、鬼がいてるからね 常識的に出て行ったら何をされるかわからない、というのもあるし 今までこのおじいさんは人と交わっていなかったよね 瘤があるから人との接触を避けてきたおじいさんではありますよね そういうおじいさんの性格なんかも考えながらですね
3:04 ちょっと色々なことが想像できますね 一旦は「いやいやいや」という風に思いとどまった後、それでもなんですね 周りでは、鬼達のはやし立てる拍子が調子よく聞こえてきたので 「さもあれ、ただ走り出でて舞ひてん、死なばさてありなん」 と思って飛び出して行った訳ですね 「さもあれ」というのは「どうなってもいいや」という もうお決まりの定型フレーズなんですね 「さもあらばあれ」という「どうなってもいい」 「そうなるならそうなってしまえ」というちょっと投げやりなんですね 「もうどうなってもいいわ」「もうええわ」という そういう言葉なんですね
3:49 もうどうなってもいいと ただ走り出して舞おうと 「死なばさてありなん」 「もし死んだらもうそれでいい」という風に言ったということですね 「もう死んでもいい」と「今踊りたいんだ!」と 本当にどうしたの?何か物の怪でも憑いたのか?という感じですね どうしたのかしら?と もうおじいさんの心の奥底からですね もう衝動に駆られた訳ですね もう死んでもいい ただ、自分が今したいのは走り出して舞いたい!踊りたい!と
4:35 今まで踊ったことなんか多分このおじいさんはないと思うんですよね そのおじいさんが突然、自分の中で何かこうパーンとね 弾けた時があったんでしょうね、踊りたいと思って 木の洞穴から、烏帽子を鼻まで垂れかけた翁が 腰に斧という木を伐る物をさして おじいさんは木こりですからね、そういう姿をしている訳です さして「横座の鬼のゐたる前に踊り出でたり。」と 横座の鬼はトップだったよね 度胸あるよね トップの鬼が座っている前に「踊り出でたり」 飛び出していった、踊り出して行ったと 鬼達はびっくりして「こは何ぞ」と騒ぎ合ったと 「これは何だ」ですね
5:22 鬼の側からしたら、人間なんか異形のものですよね しかも烏帽子を鼻まで垂れかけたおじいさんですね 烏帽子というのは頭巾なんですけれども おじいさんですよね、ちょっと私は絵がそんなにうまくないけれども こういう帽子、鼻まで垂れかけている 垂れすぎましたけれども、こういう黒い帽子 おじいさんがよく昔話の絵本なんかでかぶってますよね これがですね、鼻まで垂れかけているというおじいさんですね そういうおじいさんがですね 腰に斧をさしたおじいさんがいきなりトップの前へ飛び出てきて
6:10 踊っているということですから、鬼達はざわざわっ!となる訳ですね 「何もんや!」「何や!」という風に騒ぎ合ったと もうおじいさんも踊りたい一心ですから 「翁伸びあがり屈まりて、舞ふべき限り、すぢりもぢり、 ゑい声を出して、一庭を走りまはり舞ふ。」ということですね おじいさんはぐーんと体を伸ばしたり あるいはかがまってしゃがんだりということですね もう体をフルに使っている訳ですね そして「舞ふべき限り」というのは 色んな舞いの振り付けであったり、ステップであったり もうその限りを尽くして、体もできるかという仕草ですね 動作全てを尽くすぐらい
6:57 「すぢりもぢり」ですね 「もぢる」というのは「ねじる」という感じかな 色々ひねったりくねったりという感じでしょうかね 体をひねったりくねったり、体を自在に色々使いこなしてですね しまいには「ゑい」という声まで、掛け声だよね 「えーい!」という掛け声まで出してですね そして「一庭を走りまはり舞ふ」だよ、すごくない? お庭中、もうここが自分のステージだ!的にですね 走り回って舞ったということですね もうとっても楽しい感じですね
7:42 それで首領の鬼を始めとして、集まっていた鬼達は 皆びっくりして面白がった、と そういうおじいさんが突然飛び出してきてですね そしてしかもですね 色んな振り付けをしながら、お庭中を舞台にしてですね 舞っている、ダンスをしている、ということだから 皆びっくりして面白がったと お酒も入っているしね、大いに盛り上がったんじゃないでしょうか もしかしたらこのおじいさんが飛び出す前に 色んな鬼達が舞っていましたよね ですから、その舞っていた、ダンスしていた鬼達にも「ゑい!」とこう 「Yo!」じゃないですけれど、何か誘う掛け声を掛けてですね 一緒に盛り上がっていますよね ダンスセッションというんでしょうか
8:28 一緒にダンスを合わせてですね 会場全体をこう盛り上げたという、そういう「ええ感じ」 イメージしてくださいね おじいさんはすごい楽しんだ訳です そうするとおじいさんの、翁の踊りを気に入った首領の鬼が 「これから宴会の時には必ず踊りに来い」という風に言った お気に入りになってしまった訳ですね それでおじいさん「きっと参りましょう」 「行けますよ!」ちょっと興奮気味ですよね、と答えると 奥の座の三番目にいた鬼が、トップから数えて三番目という 何か三番目というのが、なかなか細い描写が面白いですね 序列がある中で三番目の鬼が
9:17 「約束の保証のために質を取った方が良い」と言うと だからしっかりしている訳ですね 来ると言ってるけれども、ホンマに来るかわからへんから 何か質を取ってですね 保証をした方がいいよ、という風にアドバイスをする訳ですね そうするとトップが「もっともだ」と言って 「何を質にしたら良いだろう」と それぞれ考えを言い合っていた、話し合っていた訳ですね 鬼達が「これがいいんじゃないか、あれがいいんじゃないか」 「いやいや駄目だよ」みたいなね 話し合いをしていた時に、トップ鬼が やっぱりトップですね、思いついた訳です 「かの翁が面にある瘤をや取るべき。 瘤は福の物なれば、それをや惜しみ思ふらん」という訳ですね あのおじいさんの顔にある瘤、これを取るのはどうだろうと
10:06 取るべきじゃないかな、となった訳ですね 瘤を取ったらいいんじゃないかという風に思いついた訳ですね 瘤はなぜかというと「福の物なれば」と言ってね おじいさんにとっては嫌なものだったんだけれども 鬼にとっては「福の物」みたいですね 瘤は鬼にとっては良いもののようで「瘤は福の物だから、 それを取ったらおじいさんは惜しむんじゃないか」ですね
10:54 大事なものを、だから質にしようということですね 翁にとって大切なものを質にしよう という風にトップの鬼が提案した訳ですね そうするとおじいさんはですね 「ただ目鼻をば召すとも、この瘤は許し給ひ候はん。」と ただ目と鼻これはお召しになったとしても、お取りになったとしてもですね この瘤は許してください この瘤だけはもう取るのを勘弁してくださいよ、ということですね 目鼻を取るとしても、この瘤は取るのはやめてくださいという訳ですね
11:52 取らないで、ということですね 「なんで?」と思いますよね おじいさんは瘤を取ってほしかったはずですよね だけれどもここで、鬼が「じゃあ瘤を取って質にしよう」と言った時に 「瘤を取らないでください」という風に答えている ここら辺のこのおじいさんの反応 そこから、おじいさんはどういう人かという人物像を色々想像できますよね こういう風に言う訳です 「年比持ちて候ふ物を故なく召されん、すぢなき事に候ひなん」と 「年比」は「長年」ということですね 「長年持っていた物を」ですね 瘤はずっと付いていますよね、おじいさんにね 長年持っている物を理由なく「故」ですよね
12:40 理由なく取られるのは「すぢなき」と 物事の筋目と言うか、筋違い、道理が通っていないということですね だから「これは無茶苦茶ですよ」という風に言ったと 長年自分が身につけている物を、いきなりそんなを訳もわからずですね 取られるなんて、そんな無茶苦茶なことがありますか、という風に おじいさんが答えた訳です そうするとトップの鬼が、こんなに惜しんでいる物なら、それを取ろうと これぐらいその瘤は大事なものなんだな、という風に思ったんですね つまり、おじいさんは頭がいいよね
13:27 ここでこれを「さあさあ瘤を取ってください!」と言うと あんまり大事じゃないものと思われるかも、という風に 一瞬にしておじいさんは考えてですね 瘤がいかにも大事なもののように答えたという ここの頭の回転の速さ、なかなかですよね フィーバーして興奮していたわりには、こうカッとね 冷静になったんでしょうかね トップの鬼が「こんなに惜しんでいる物なら、それを取ろう」と言うと 鬼達が寄ってきて 「では取るぞ」と言ってねじって引いたが、少しも痛くなかった 「きっと次の宴会に来いよ」と言って 夜が明けてきたので、鬼達は帰って行ったと おじいさんは瘤を取られて、家に帰る訳ですね 「翁顔を探るに、年比ありし瘤跡なく、
14:16 かいのごひたるやうにつやつやなかりければ」ということですね 翁が顔を探ってみると、長年あった、長年取れなかったあの瘤が もう跡形もなく、なくなっていると 「かいのごひたるやうに」と「拭い取ったように」ということですね 拭い取ったように「つやつやなかりければ」と 「つやつや」というのは否定と呼応して「全くない」ということです 全くなくなっていたので「木こらん事も忘れて家に帰りぬ。」と 山へ何をしに来ていたかというと木こりをしに来ていたんですけれども それも忘れてしまって、嬉しかったんでしょうね、家に帰ったと
15:05 それぐらい嬉しかったと それでおばあさんに言われる訳ですね 妻の姥「こはいかなりつる事ぞ」と 「どうしたの?」と、瘤がなくなっていますからね どうしたの、という風に奥さんが聞いたので 「これこれのことがあってね」と語ると 自分がフィーバーして踊ったことなんかを いっぱい振りなんかをしながら語ったのかもしれませんよね 「こんな怖い鬼がいてね」とちょっとお話を盛って語ったかもしれませんね そうするとそれに対しておばあさんは「あさましきことかな」と言うと これだけなんですね、終わりなんですね
15:51 これで終わってしまうんですね 「あさましきことかな」というのは これは「驚きあきれる」という古文単語ですね 「驚きあきれることですね」と言うと これで終わりですね 今までの鬼達とのこのダンスのシーンとかと見比べると 非常にあっさりとしたこのおばあさんの反応 リアクションというのは、非常に淡白なんですね おじいさんはすごい木こりを忘れるぐらいに喜んで帰っているわりにはですね 「あさましきことかな」の一言で片づけられてしまっているんですよね この「驚きあきれる」というのを
16:36 どういう風におばあさんは反応したのかしらという ここも言葉がコンパクトな分、色んな対応というのを皆さんも 想像できるんじゃないかなという風に思います 「驚きあきれる」というのは、嬉しくてびっくりというのと 嬉しくない時のびっくりというのと両方ありますよね プラスとマイナスの両方がありますよね どっちなんでしょうね、おばあさんはね 「良かったね!」という風に驚いたのか 「ええっ!?」と驚いたのか どっちやと思いますか? また色々と考えてみてくださいね 「あさましきことかな」という風に言いました さあ、これでですね 瘤を取られておじいさんはハッピーで、これで終わる訳ではないんですね
17:22 その後ですね、まだお話は続いていきます それは次の動画で見ていきましょう